『歌うように伝えたい』の発売を前に。

画家ささめやゆき様の個展に乃木坂の画廊を訪ねた。この度、私が書き下ろしたエッセイが6月15日に発売になる。その『歌うように伝えたい』の本のカバーにささめや様の絵を使わせてもらった。
30年前にやはり、ささめや様が宮沢賢治の『ガドルフの百合』を絵本にされた時、その個展で家内が原画の一枚を買った。それ以来ずっと居間に掛けていたその絵を私はこの本の装画として使いたくて、ささめや様に許してもらい使用した、その御礼の挨拶に行ったのだ。そう私はガドルフなのだと思い続けてこのエッセイを書いていたのだ。

おれの恋は、いまあの百合なのだ、百合の花なのだ、砕けるなよ!
一瞬の稲妻の閃光の中でひときわ白く浮かびあがる百合の花、ガドルフはその百合に力強く願いを込める。ガドルフの、いや私にとっての百合はなんだろう……。

生き残った命のカケラと記憶の底の、また底の……いくら目をこらしても、もう見えなくなってしまった、見失ってしまったことへの焦躁と憧憬。そんなエッセイを書いてみたかったのだ。灯りを消した薄暗い画廊で、ささめや画伯の幻燈紙芝居を観ながら、私はそんな事を思っていた。

お知らせとして。

書き下ろしエッセイ『歌うように伝えたい』塩見三省著

発売日は6月15日  全国書店にて 定価;1870円 発行;角川春樹事務所